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経営セーフティ共済(倒産防止共済)徹底活用ガイド!節税メリット・デメリットと2024年改正後の賢い使い方
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「経営セーフティ共済」、または「倒産防止共済」という名前を聞いたことがある経営者の方は多いのではないでしょうか。注目される一番の理由は、やはり「支払った掛金が全額、損金や必要経費になる」という節税効果の大きさでしょう。
でも、この制度は単なる節税のためだけのものではありません。本来の目的はもっと重要で、「取引先の倒産」という予期せぬ事態から会社を守り、連鎖倒産を防ぐためのセーフティネットなのです。
この記事では、経営セーフティ共済がどんな仕組みなのか、節税をはじめとするメリット、そして意外と見落としがちなデメリットやリスクについて詳しく解説します。さらに、2024年10月に行われた制度改正の内容を踏まえ、どうすればこの制度を賢く活用できるのか、特に重要な「出口戦略」についても掘り下げていきます。
なぜこの制度があるの? 目的と運営元
連鎖倒産を防ぐための備え
経営セーフティ共済の一番大切な役割は、頑張っている中小企業が、取引先が突然倒産した影響で経営難に陥ったり、最悪の場合、連鎖倒産してしまったりするのを防ぐことです。いわば、中小企業の経営を守るための「保険」のような存在と言えるでしょう。
国が運営しているから安心
この制度を運営しているのは、国が100%出資している「中小企業基盤整備機構(中小機構、SMRJ)」という独立行政法人です。国がバックについているので、民間の金融商品と比べて信頼性が高く、安心して利用できるのが大きな特徴です。
みんなで支え合う「相互扶助」
基本的な考え方は「相互扶助」。加入している中小企業が少しずつ掛金を出し合い、それを中小機構が管理・運用して大きな資金プールを作ります。そして、加入している企業の取引先が倒産するなどの困難な状況になった時に、このプールからお金を貸し出す、という仕組みです。ポイントは、もらえるのは保険金ではなく、あくまで「貸付」だということです。
どんな会社が加入できるの? 加入資格をチェック
この制度を利用できるのは、いくつか条件を満たす中小企業や個人事業主の方です。
事業を始めてからの期間
原則として、申し込み時点で1年以上、事業を続けている必要があります。設立したばかりの会社は基本的に対象外ですが、個人事業主として1年以上活動した後に法人化した場合、個人事業主だった期間も合わせて1年以上ならOKです。
加入できる事業形態
個人事業主はもちろん、株式会社や合同会社といった会社法上の会社、税理士法人や弁護士法人のような専門家が集まる法人、企業組合なども対象になります。ただし、医療法人やNPO法人、農協などは加入できません。
会社の規模(資本金や従業員数)
会社の規模にも条件があります。業種によって、資本金(または出資総額)か、常時雇っている従業員数のどちらかが以下の基準を満たす必要があります。
業種 | 資本金の額又は出資の総額 | 常時使用する従業員数 |
---|---|---|
製造業、建設業、運輸業、その他の業種 | 3億円以下 | 300人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
ゴム製品製造業(一部除く) | 3億円以下 | 900人以下 |
ソフトウェア業・情報処理サービス業 | 3億円以下 | 300人以下 |
旅館業 | 5,000万円以下 | 200人以下 |
注意
「常時使用する従業員」には、役員や個人事業主本人、家族従業員、2ヶ月以内の短期アルバイトなどは含まれません。
加入できないのはどんな時?
上記の条件をクリアしていても、税金(所得税や法人税)を滞納している場合や、過去に掛金の未払いが原因で契約を解除されたことがある場合、すでにこの制度に加入している場合(一人(一社)につき一契約のみ)などは加入できません。
掛金はいくらから?どうやって払うの?
毎月の掛金
毎月支払う掛金は、5,000円から最高200,000円まで、5,000円刻みで自由に決められます。会社の状況に合わせて、無理のない金額を設定できるのが嬉しいポイントです。
掛金の総額には上限がある
積み立てられる掛金の合計額には上限があり、800万円までと決まっています。この上限に達したら、それ以上掛金を支払う必要はなくなり、自動的にストップ(掛止め)します。この800万円という金額は、節税(税金の繰延べ)ができる上限額であり、いざという時に借りられる共済貸付の最高額(8,000万円)にも関係してくる大切な数字です。
掛金額は途中で変更できる?
はい、加入した後でも、会社の経営状況に合わせて毎月の掛金額を変更(増額・減額)できます。
- 増額
- 月額20万円の範囲内なら、いつでも増やせます。
- 減額
- 月額5,000円まで減らすことができます。ただし、減額するには、「事業規模が小さくなった」「経営が著しく悪化した」「病気やケガなどで掛金の継続が難しくなった」といった正式な理由が必要とされています。実際には比較的柔軟に対応してもらえることもあるようですが、念のため理由は準備しておきましょう。
手続きは「掛金月額変更申込書」を提出するだけ。変更したい月の5日までに中小機構に書類が届けば、その月から新しい掛金額になります。
まとめて前払い(前納)も可能
将来支払う分の掛金を、前もって支払う「前納」という仕組みもあります。
- 期間
- 最大で1年(12ヶ月)分を前納できます。
- メリット
前納の主なメリットは、税務上の効果と手続きの簡略化です。- 税金面での大きなメリット
前納した掛金は、支払った年の経費(損金または必要経費)として、全額計上できます。例えば、決算間近に利益がたくさん出そうな時に、翌年分を含む1年分の掛金(最大240万円)を前納すれば、その全額を当期の経費にできるのです。これは、効果的な決算対策・節税策として活用できます。 - その他のメリット
掛金総額の上限800万円に早く到達させ、万一の際の貸付可能額を早期に最大化できます。また、毎月手続きする手間が省けます。
- 税金面での大きなメリット
- 前納割引(前納減額金)について
- わずかながら前納に対する割引制度(前納減額金)も存在します。しかし、現在の金利情勢を反映し、その割引率は非常に低い水準(例えば年0.09%程度)となっています。そのため、割引による金銭的なメリットは限定的であり、前納の最大の魅力は、やはり支払った年に全額を経費計上できる税務上のメリットにあると言えるでしょう。
税金面でのメリット:やっぱり気になる「全額損金」
経営セーフティ共済が多くの経営者から注目される最大の理由は、やはり税金面でのメリットでしょう。
支払った掛金は、全額経費に!
支払った掛金は、法人の場合は全額「損金」として、個人事業主の場合は全額「必要経費」として、支払ったその年の利益から差し引くことができます。
- 上限
- 月20万円、年間で最大240万円、トータルで最高800万円までが対象です。
- 個人事業主の方へ
- この必要経費にできるのは、あくまで事業所得の計算上だけです。不動産所得など、他の所得から差し引くことはできません。
- 確定申告での手続き
この損金・必要経費算入の適用を受けるためには、確定申告時に以下の書類を添付する必要があります。- 個人の場合
『特定の基金に対する負担金等の必要経費算入に関する明細書』 - 法人の場合
『特定の基金に対する負担金等の損金算入に関する明細書』及び、法人税申告書別表十(七)の『適用額明細書』 手続きを忘れると、せっかくのメリットを活かせないので注意しましょう。
- 個人の場合
どれくらい節税になるの?
掛金を経費にすることで、課税される所得が減り、結果的に税金の負担が軽くなります。
- 法人の場合
- 例えば、年間240万円(月20万円×12ヶ月)の掛金を支払い、会社の税率(実効税率)が30%だとすると、単純計算で年間72万円もの法人税等の負担を軽減できる可能性があります。
- 個人事業主の場合
- 同じく年間240万円を経費にした場合、ご自身の所得税や住民税の税率(一番高い税率の部分)に応じて節税効果が変わります。所得が多い方ほど、節税効果は大きくなります。
ただし、ここで非常に重要な注意点があります。これは税金が「免除」されるわけではなく、あくまで将来に「繰り延べ」られるだけだということです。解約してお金を受け取る時には税金がかかるため、「出口」をしっかり考える必要があります。
「前納」で利益をコントロール
先ほど説明した「前納」を活用すれば、利益がたくさん出そうな年度に、最大240万円の掛金を前払いして、その期の経費を増やし、課税所得を大きく抑えるという利益調整が可能です。
【要注意!】2024年10月の制度改正:解約後の再加入ルール変更
これは非常に重要な変更点です。2024年10月1日以降に経営セーフティ共済を一度解約し、その後、同じ会社や個人事業主が再び加入(再加入)した場合、解約した日から2年間は、支払った掛金を経費(損金・必要経費)にすることができなくなりました。
- なぜ変わった?
- この制度が、本来の目的である「連鎖倒産防止」のためではなく、単なる節税(税金の繰り延べ)目的で、短期間(掛金が満額800万円になり、解約しても100%戻ってくる40ヶ月経過後)で解約と再加入を繰り返す、という使い方をされるケースがあったため、これを抑制するための措置です。
- どんな影響がある?
- これまで可能だった「満額まで積み立てる→解約してすぐ再加入」という節税サイクルが、事実上できなくなりました。一度解約すると、その後2年間はこの制度の節税メリットを受けられない「ペナルティ期間」が発生することになります。そのため、加入や解約を決める際には、より長期的な視点で計画を立てる必要が出てきました。
この改正によって、解約以外の方法で資金を確保する「一時貸付金」制度の重要性が増したとも言えます。また、いつ解約するか(出口戦略)が、これまで以上に大切になってきます。
経営・財務面でのメリット:節税だけじゃない安心感
税金面だけでなく、会社の経営を安定させるための財務的なメリットもあります。
共済貸付:取引先が倒産した時の「緊急融資」
これが経営セーフティ共済の本来の役割であり、最大の安心材料です。
- どんな時に使える?
- 加入してから6ヶ月以上経っていて、取引先が「倒産」したために、売掛金などが回収できなくなった時。
- 「倒産」って具体的に?
- 法律上の倒産手続き(破産、民事再生など)が始まった場合や、手形が不渡りになった場合などが該当します。注意点として、取引先が夜逃げしてしまったような、客観的な倒産手続きがないケースは対象外となります。
- いくら借りられる?
- 回収できなくなった金額と、積み立てた掛金の10倍(ただし上限8,000万円)の、どちらか少ない方の金額まで。
- 借りる条件は?
- 担保も保証人も不要です。そして、公式には利息はゼロ(無利子)とされています。
- 【重要】実質的なコストは無視できない
- ここが重要なポイントです。無利子ではありますが、借りた金額の10分の1(10%)にあたる額が、積み立ててきた掛金から強制的に差し引かれ、消滅してしまいます。例えば、掛金が800万円ある状態で最大の8,000万円を借りると、掛金の残高は一気にゼロになります。これは、返済不要ではありますが、実質的には非常に大きなコストと言えます。そのため、「無利子」という言葉だけに注目せず、この掛金消滅の影響を十分に理解する必要があります。一部では「実質的には有利子と同じようなものだ」という指摘もあります。
- 返済方法は?
- 借りた金額(掛金消滅分を除く元本)に応じて、5年から7年(最初の6ヶ月は据え置き)で、毎月均等に分割して返済します。
- 手続きはスピーディー
- 条件が確認できれば、比較的早く融資を受けられます。ただし、融資の請求は、取引先の倒産から6ヶ月以内に行う必要があります。
一時貸付金:倒産時以外の「ちょっとした資金需要」に
取引先の倒産といった緊急時でなくても、一時的に事業資金が必要になった場合に利用できる制度です。
- 利用条件
- 掛金を12ヶ月以上支払っていること。
- いくら借りられる?
- 借りられる上限額は、「その時点で解約した場合に戻ってくるであろう金額(解約手当金)の95%まで」とされています。しかし、ここにも注意点があります。この計算のベースとなる解約手当金は、通常、最も支給率が低い「機構解約(強制解約)」の場合の支給率で計算されます。
- つまり、掛金を40ヶ月以上払い込んでいても、自己都合解約なら100%戻るはずの掛金が、機構解約ベース(例えば95%など、100%より低い率)で評価され、さらにその金額の95%が上限となるのです。結果的に、掛金総額 × 機構解約時の支給率(%) × 95% が実際の借入限度額に近くなります。例えば、掛金総額が800万円で、機構解約時の支給率が95%だとすると、800万円×95%×95% = 722万円程度が上限の目安となります(最低30万円から、5万円単位)。
- 借りる条件は?
- こちらも担保・保証人は不要ですが、利息がかかります(最近の金利は年0.9%程度)。
- 返済方法は?
- 借入期間は1年間で、期限が来たら一括で返済します。
- 使い道は?
- 解約せずに資金を一時的に調達できる便利な制度です。特に2024年の改正で解約後のペナルティができたため、解約を避けたい場合の短期的な資金繰り手段として、以前よりも価値が高まっています。ただし、利息がかかること、返済期間が1年と短い点、そして思ったよりも借入限度額が伸びない可能性がある点には注意が必要です。
デメリットとリスク:加入前に知っておくべき注意点
メリットがたくさんある経営セーフティ共済ですが、加入・利用する前に、以下のデメリットやリスクもしっかり理解しておくことが大切です。
解約時のお金(解約手当金)には所得税・法人税がかかる!(消費税は?)
これが最も重要な注意点かもしれません。経営セーフティ共済を解約して受け取るお金(解約手当金)は、全額が、受け取った年の利益(法人の場合は益金、個人事業主の場合は事業所得)として扱われ、法人税・所得税等の対象になります。一方で、消費税については課税対象外(不課税)です。
- どういうこと?
- 掛金を支払っている間は、経費になって節税(税金の繰り延べ)になりますが、解約するとその効果が反転し、まとまった利益(所得)が発生します。もし、会社の業績が良い年に解約してしまうと、その解約手当金に高い税率で所得税や法人税がかかり、せっかく繰り延べてきた税負担が一気にやってきて、結果的に「あまり得しなかった」「むしろ損したかも」ということになりかねません。
- 税金は「繰延べ」られているだけ
- つまり、この制度は税金が「なくなる」のではなく、「先送り」されるだけなのです。最終的に得するかどうかは、掛金を払っていた時の税率と、解約してお金を受け取る時の税率の差で決まります。だからこそ、会社の利益が少ない年(赤字の年)や、役員退職金の支払いなどで大きな経費が出る年に合わせて解約するなど、税金の負担をできるだけ軽くするための「出口戦略」を事前に考えておくことが、ものすごく重要なのです。
お金が長期間拘束される&早く解約すると損をする(元本割れ)リスク
解約した時にいくら戻ってくるか(解約手当金の支給率)は、掛金を支払っていた期間(月数)と、解約の仕方によって大きく変わります。
掛金納付月数 | 任意解約 (自己都合) | みなし解約 (死亡・解散等) | 機構解約 (強制解約) |
---|---|---|---|
1~11ヶ月 | 0% | 0% | 0% |
12~23ヶ月 | 80% | 85% | 75% |
24~29ヶ月 | 85% | 90% | 80% |
30~35ヶ月 | 90% | 95% | 85% |
36~39ヶ月 | 95% | 100% | 90% |
40ヶ月(3年4ヶ月)以上 | 100% | 100% | 95% |
- 1年未満で解約
- なんと、1円も戻ってきません(支給率0%)。支払った掛金は全額「掛け捨て」です。
- 1年以上~3年4ヶ月未満で解約
- 自己都合で解約した場合、戻ってくるのは支払った掛金の80%から95%。つまり、支払った額より少ない金額しか返ってこない「元本割れ」の状態になります。
- 3年4ヶ月(40ヶ月)以上で解約
- 自己都合や、死亡・解散などで解約(みなし解約)した場合は、支払った掛金が全額(100%)戻ってきます(ただし、強制解約の場合は最大95%)。
この仕組みを見ると、早く解約することに対するペナルティが大きいことがわかります。加入してから3年4ヶ月以内に資金が必要になる可能性がある場合や、短期間でお金を貯める目的で利用するのは、全くおすすめできません。支払った掛金を取り戻したいなら、最低でも3年4ヶ月は続ける覚悟が必要です。その期間は、お金が引き出せない「ロックアップ」状態になると考えましょう。
利息や運用益は一切つかない
銀行預金のような利息や、投資信託のような運用による利益は、この制度には一切ありません。あくまで、万が一のリスクに備えることと、税金を将来に繰り延べることが目的の制度です。お金を増やすことを期待するものではありません。もしお金を増やすことが目的なら、iDeCoや他の投資商品を検討すべきでしょう。この制度に拠出したお金には、他の運用をしていれば得られたであろう利益(機会費用)が発生している、と考えることもできます。
キャッシュフロー(お金の流れ)への影響
毎月掛金を支払うということは、当然、会社のキャッシュフロー(手元に残るお金)を減らすことになります。また、共済貸付や一時貸付金を利用した場合は、その返済も定期的にお金が出ていくことになります。掛金の額を決めたり、貸付を利用したりする際には、これらがお金の流れに与える影響を十分に考え、無理のない計画を立てることが大切です。
将来、制度が変わるかもしれないリスク
2024年の改正があったように、この制度は国の政策や経済状況によって、将来、内容が変わる可能性もあります。加入した時に期待していたメリットが、未来永劫保証されるわけではない、というリスクも頭に入れておく必要があります。
いざという時の「共済貸付」が使えないケースもある
取引先が倒産した時に頼りになる共済貸付ですが、対象となる「倒産」の定義は意外と厳格です。先ほども触れたように、取引先が夜逃げしてしまったような、法的な手続きが取られていないケースは対象外です。取引先からの入金が止まったからといって、必ずしも共済貸付が利用できるわけではない、という点は覚えておきましょう。
解約する時の手続きと注意点(2024年改正を踏まえて)
解約には種類がある
解約には、主に3つのパターンがあります。
- 任意解約
- 加入している会社や個人事業主が、自分の意思でいつでもできる解約です。
- みなし解約
- 加入者が亡くなった(個人事業主の場合)、会社が解散した、などの特定の事情があった場合に、解約したものとみなされる扱いです。
- 機構解約
- 掛金を12ヶ月分以上滞納した場合や、不正にお金を受け取ろうとした場合などに、運営主体である中小機構から強制的に解約させられるケースです。この場合、戻ってくるお金(解約手当金)の割合が最も低くなります。
解約の手続き(任意解約の場合)
自分で解約したい場合は、以下のような流れになります。
- 書類をもらう
- まず、「解約手当金請求書(様式㊥401)」という書類を入手します。これは中小機構のウェブサイトや、加入手続きを行った団体(商工会議所や金融機関など)で手に入ります。
- 書類を記入・準備する
- 請求書に必要事項を記入し、実印を押します。併せて、加入時にもらった「共済契約締結証書」と、解約手当金を振り込んでもらう銀行口座の情報がわかるもの(通帳のコピーなど)を用意します。場合によっては、追加の書類(登記簿謄本など)が必要になることもあります。
- 書類を提出する
- 用意した書類一式を、中小機構本体ではなく、加入申し込みを行った委託団体(商工会議所・商工会など)や、掛金の引き落とし口座がある金融機関の支店(登録取扱機関)の窓口に提出します。
- お金を受け取る
- 書類が受け付けられ、審査が終わると、通常、書類到着から30営業日以内に指定した口座にお金が振り込まれます。
解約金はいつ、どうやって課税される?
解約手当金は一時金として一括で支払われ、その全額が受け取った年の利益(所得)として税金の対象になります。税務上、いつの収入として計上するかについては、厳密な規定はありませんが、一般的には解約手当金が口座に振り込まれた日、または中小機構から支払通知書が届いた日などが目安となります。顧問税理士などに確認するのが確実です。
2024年の制度改正で、解約戦略はどう変わる?
2024年10月1日以降の解約には「解約後2年間の再加入時損金不算入」ルールが適用されるようになりました。これにより、解約するかどうかの判断は、以前よりもずっと慎重に行う必要があります。
- 解約のタイミングがより重要に
- 解約すると大きな利益(所得)が発生するため、それを打ち消せるだけの損失(赤字)や大きな経費(役員退職金、大型設備投資など)が見込める年まで解約を待つ、という戦略が一層重要になりました。業績が良い年に安易に解約するのは避けたいところです。
- もし再加入を考えているなら
解約した後、将来また加入したいと考えている場合は、2年間は掛金が経費にならない期間があることを計算に入れる必要があります。- 対応策1
解約後すぐに再加入し、経費にならない2年間は、掛金を最低額(月5,000円)にして支払い続け、加入期間(納付月数)だけは稼いでおく。 - 対応策2
解約後2年間は加入せず、2年経ってから改めて加入し、経費算入を再開する。 どちらが良いかは、会社の資金繰りや将来の利益見込みなどによって異なります。
- 対応策1
- 「一時貸付金」の活用も検討
- 短期的にお金が必要になった場合、解約するのではなく、一時貸付金制度を利用すれば、2年間の経費不算入ペナルティを受けずに済みます(ただし、利息負担、返済期間の短さ、借入限度額の計算方法には注意が必要)。
今回の改正は、この制度を単なる短期的な節税テクニックとして使うことを難しくし、本来の目的である長期的な経営安定への備えと、計画的な出口戦略の必要性を改めて教えてくれるものと言えるでしょう。
他の制度とどう違う? 比較してみよう
経営セーフティ共済は、中小企業が利用できる様々な支援制度の一つです。他の主な制度と比べてみると、その特徴がよくわかります。
制度名 | 主な目的 | 掛金/拠出金の税務 | 受取金の税務 | 運用要素 | 貸付制度 | 主な加入対象 |
---|---|---|---|---|---|---|
経営セーフティ共済 | 取引先倒産時の連鎖倒産防止、緊急資金確保 | 全額損金/必要経費 | 全額益金/事業所得 (課税) | 無し | 有り | 1年以上事業継続の中小企業者(規模要件あり) |
小規模企業共済 | 小規模経営者等の退職金・生活資金準備 | 全額所得控除 | 退職所得/公的年金等 (税制優遇) | 限定的 | 有り | 小規模企業の経営者・役員、個人事業主 |
iDeCo | 個人の老後資産形成 | 全額所得控除 | 退職所得/公的年金等 (税制優遇) | 有り | 無し | 原則65歳未満の国民年金被保険者等 |
役員報酬最適化 | 法人利益調整、役員への報酬・退職金支払い | 損金算入 (要件あり) | 給与所得/退職所得 (退職金優遇) | 無し | 無し | 法人 |
生命保険活用 (法人) | リスク保障、退職金準備、福利厚生等 | 一部/全額損金 (商品による) | 受取人等により異なる課税 | 有り | 有り | 法人 |
この比較表を見ると、経営セーフティ共済は、他の制度が主な目的とする「退職金や老後のための資金準備」「資産を増やすこと」とは違い、「事業を続ける上でのリスクへの備え」と「短期から中期の税金の繰り延べ」に特化した制度だということがわかります。
どう活用するのがベスト? 重要すぎる「出口戦略」
経営セーフティ共済のメリットを最大限に引き出すためには、制度の特性をよく理解し、自社の状況に合わせて戦略的に加入し、そして何よりも「出口戦略」を事前にしっかり計画しておくことが絶対に必要です。
こんな会社には特におすすめ
- 取引先の経営状況に少し不安がある、あるいは特定の取引先への依存度が高く、もしそこが倒産したら経営に大きな影響が出そうな会社(共済貸付が本来のセーフティネットとして役立ちます)。
- 安定して利益が出ていて、法人税や所得税の負担を少しでも軽くしたい(将来に繰り延べたい)と考えている会社(掛金の損金・必要経費算入メリットを活かせます)。
- 数年後(目安として3年4ヶ月以上先)に、役員の退職金支払い、大きな設備投資、新規事業への投資など、多額の経費(損金)が発生する予定がある会社(そのタイミングで解約すれば、解約金の税負担を打ち消したり、軽くしたりできます)。
なぜ「出口戦略」がそんなに重要なのか?
何度も繰り返しますが、この制度の節税メリットは「税金の繰り延べ」です。つまり、いつか解約してお金を受け取る時には所得税・法人税がかかるのです。その税負担をいかにコントロールするかが、この制度をうまく活用できるかどうかの分かれ道になります。
ベストな解約タイミングは?
- 赤字の年
- 会社の業績が悪く、赤字になってしまった年に解約すれば、解約金(利益・所得)が赤字と相殺されて、税金の負担なく資金を受け取れる可能性があります。
- 大きな経費が出る年
- 役員への退職金支払い、工場の修繕、古い設備の廃棄損など、通常よりも大きな経費(損金)が出る年に解約すれば、同じように税負担を軽くできます。
避けるべき解約タイミングは?
- 業績が良い年
- 特に大きな経費の予定がないのに、会社の利益がたくさん出ている年に解約してしまうと、解約金に高い税率がかかってしまい、せっかく繰り延べてきた税金のメリットが吹き飛んでしまう可能性があります。
2024年の制度改正で、戦略はどう見直す?
解約してから2年間は、再加入しても掛金が経費にならない、というルール変更は、これまでの「満額になったら解約してすぐ再加入」という節税サイクルを不可能にしました。そのため、戦略を見直す必要があります。
- もっと長期的な視点で考える
- 800万円の掛金を積み立てて解約する、というサイクルは、以前のように数年単位で繰り返せるものではなくなりました。例えば、「3年4ヶ月以上積み立てる+必要なら少し待つ+損金にならない2年間」といった、5年以上の長いスパンで考える必要が出てきました。
- 出口の計画をより具体的に
- 加入する時点で、「いつ頃、何のために解約するのか」という出口の計画を、以前よりも明確に立てておくことが重要になりました。
- 解約以外の方法も考える
- 掛金の額を減らす、掛金の支払いを一時的に止める(掛止め)、あるいは一時貸付金を利用するといった選択肢が、キャッシュフロー調整の方法としてより重要になる可能性があります。
加入を検討する際のチェックリスト
この制度への加入や活用を考える際には、以下の点を順にチェックしてみることをお勧めします。
- リスクは?
- 取引先の倒産は、自社にとってどれくらい現実的な脅威か?共済貸付は本当に必要か?
- お金は大丈夫?
- 毎月の掛金を無理なく支払い続けられるか?キャッシュフローへの影響は許容できる範囲か?
- 出口は?
- 将来(3年4ヶ月以上先)の利益はどうなりそうか?解約金を有効活用できるような大きな支出(退職金、投資など)の計画はあるか?いつ解約するのがベストか?
- 期間は守れる?
- 3年4ヶ月未満で解約(元本割れ)する可能性はないか?
- 改正は理解した?
- もし解約後の再加入を考えているなら、2年間経費にならない影響をどう考えるか?
- 他の選択肢は?
- 小規模企業共済、iDeCo、生命保険など、他の制度と比べて、自社の目的に一番合っているのはどれか?
- 専門家は?
- 税理士などの専門家に相談し、自社に合った具体的なアドバイスをもらっているか?
まとめ:計画的な活用がカギ!専門家への相談も忘れずに
経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)は、取引先の倒産という万が一の事態に備える強力なセーフティネット機能と、掛金が全額経費になるという有効な税金繰延べ手段の、二つの顔を持つユニークな制度です。
しかし、そのメリットを最大限に活かすためには、良い点だけでなく、注意すべき点(特に解約時の所得税・法人税、早期解約での元本割れリスク、共済貸付の実質コスト、一時貸付金の計算方法、そして2024年の制度改正の影響)を深く理解し、戦略的に利用することが絶対に必要です。単に「節税になるらしいから」という理由だけで飛びついてしまうと、将来、思わぬ税金の支払いや資金繰りの悪化に悩むことになるかもしれません。
この制度の活用を検討している経営者の方へ
- まずはリスクを考える
- 自社にとって取引先の倒産リスクがどれくらいあるかを見極めましょう。
- 「出口」を先に考える
- 解約金をいつ、何に使うか計画を立てましょう。
- 「40ヶ月」は意識する
- 元本割れを避けるため、基本的に3年4ヶ月は続ける前提で考えましょう。
- 2024年の改正を忘れない
- 解約後の再加入は長期計画で。
- キャッシュフローを確認する
- 無理のない掛金額を設定しましょう。
- 他の制度とも比べる
- 自社の目的に合った最適な選択をしましょう。
- 専門家に相談する
- 税務や財務に関わることなので、必ず税理士などの専門家のアドバイスを受けましょう。
経営セーフティ共済は、正しく理解し、計画的に活用すれば、会社の安定経営と財務戦略に大きく貢献してくれる頼もしい味方です。しかし、その運用には専門的な知識と長期的な視点が欠かせません。この記事が、そのための判断材料となれば幸いです。