同行援護とは?視覚障害者の外出を支える制度を徹底解説


視覚に障害のある方が安全に、そして安心して外出するためには、適切なサポートが不可欠です。そのサポートの一つが「同行援護」です。この制度は、視覚障害者の社会参加を促進し、生活の質を向上させるために、非常に重要な役割を果たしています。
しかし、「同行援護」という言葉は聞いたことがあっても、具体的にどのようなサービスなのか、誰が利用できるのか、利用するためにはどうすれば良いのか、といった疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。
この記事では、同行援護について、制度の概要からサービス内容、利用対象者、利用方法、従業者になるための資格要件、さらには類似する制度との違いまで、網羅的に解説します。
同行援護制度の概要 ‐ 視覚障害者の外出をサポート
同行援護は、2011年に創設された、障害者総合支援法に基づく障害福祉サービスの一つです。それまで、視覚障害者の外出支援は、各自治体が実施する「移動支援事業」が中心でしたが、サービス内容や利用条件に地域差があるという課題がありました。同行援護は、こうした課題を解決し、全国一律の基準で、より専門性の高いサービスを提供するために創設されました。
制度の目的は、視覚障害により移動に著しい困難を有する方が外出する際に、専門の知識と技術を持った従業者が同行し、移動に必要な情報提供や移動の援護、排せつ・食事等の介護、その他外出する際に必要となる援助を行うことで、視覚障害者の社会参加と地域生活を支援することです。
同行援護のサービス内容 ‐ 情報提供から移動の援護、身体介護まで
同行援護のサービスは、単に「付き添う」だけではありません。視覚障害者の外出をトータルにサポートする、多様な内容が含まれています。具体的には、以下の3つが柱となります。
- 視覚的情報の支援(代筆・代読を含む): 視覚障害者にとって、周囲の状況を把握することは非常に困難です。同行援護従業者は、利用者の「目」となり、周囲の状況、看板や標識の内容、交通状況、人の流れ、景色など、視覚的な情報を的確に言葉で伝えます。また、外出先で必要な書類の記入や、メニューの読み上げなど、代筆・代読も行います。情報提供は、利用者が自ら意思決定し、主体的に行動するための基盤となる、非常に重要なサービスです。
- 移動の援護: 安全かつ円滑な移動をサポートします。段差や障害物の有無、階段の段数、エスカレーターの方向などを伝え、利用者の歩行を誘導します。公共交通機関を利用する際には、乗降の介助や、切符の購入、座席の確保なども行います。利用者の身体能力や希望に応じて、適切な移動手段を選択し、安全を確保することが重要です。
- 排せつ・食事等の介護、その他外出する際に必要となる援助: 外出先でのトイレ介助や食事介助など、身体的な介護も提供します。また、利用者の体調管理、服薬の介助、緊急時の対応など、外出中に必要となる様々な援助を行います。これらのサービスは、利用者が安心して外出を楽しむために欠かせないものです。
これらのサービスは、利用者の状況やニーズに合わせて提供されます。事前の打ち合わせで、利用者の希望や必要な支援内容をしっかりと確認し、個別の支援計画を作成することが重要です。
同行援護の利用対象者 ‐ 身体介護の有無で異なる基準
同行援護を利用できるのは、「視覚障害により、移動に著しい困難を有する方」です。具体的には、身体障害者手帳の視覚障害の等級や、医師の診断書、同行援護アセスメント票などによって判断されます。
身体介護を伴う場合と伴わない場合で、利用対象者の基準が異なります。
- 対象者:
- 同行援護アセスメント票の移動障害の欄が1点以上、かつ、視力障害、視野障害、夜盲のいずれかの欄が1点以上であること。
- ※2024年報酬改定により、「身体介護を伴う」と「身体介護を伴わない」の分類が廃止され、基本報酬が一本化された。それに伴い、対象者の要件も、「身体介護を伴わない」の要件に一本化された。
- 同行援護アセスメント票の移動障害の欄が1点以上、かつ、視力障害、視野障害、夜盲のいずれかの欄が1点以上であること。
身体障害者手帳の等級だけでなく、移動の困難さや、日常生活における介護の必要性なども考慮して、総合的に判断されます。
同行援護の利用方法と料金 ‐ 市町村への申請と自己負担
同行援護を利用するためには、まずお住まいの市町村の障害福祉窓口に相談し、支給申請を行います。市町村は、申請内容や利用者の状況を審査し、支給決定を行います。支給決定されると、「障害福祉サービス受給者証」が交付され、同行援護サービスを利用できるようになります。
利用料金は、サービス提供時間や内容、障害支援区分、利用者の所得などに応じて決まります。原則として、サービス費用の1割が自己負担となりますが、所得に応じて負担上限月額が設定されており、それを超える負担はありません。生活保護世帯や市町村民税非課税世帯は、自己負担が無料となる場合もあります。
同行援護従業者になるには ‐ 養成研修の修了が必須
同行援護のサービスを提供する事業所で働くためには、「同行援護従業者養成研修」を修了する必要があります。この研修には、「一般課程」と「応用課程」の2つがあります。同行援護ヘルパーとして働くためには、一般課程の修了が必要となります。
- 一般課程: 同行援護の基本的な知識と技術を習得する課程です。視覚障害に関する基礎知識、同行援護の制度、情報支援、移動支援の基本技術などを学びます。受講資格に制限はなく、誰でも受講できます。
- 応用課程: 一般課程修了者を対象に、より専門的な知識と技術を習得する課程です。さまざまな場面を想定した応用的な移動支援技術や、交通機関の利用に関する知識などを学びます。
同行援護のサービス提供責任者になるためには、以下のいずれかの要件を満たす必要があります。
- 介護福祉士、実務者研修修了者+同行援護従業者養成研修(一般+応用課程)
- 居宅介護職員初任者研修課程修了者+実務経験3年+同行援護従業者養成研修(一般+応用課程)
- 同行援護従業者養成研修(一般課程)+視覚障害者の介護等の業務3年+同行援護従業者養成研修(応用課程)
- 国立障害者リハビリテーションセンター学院に置かれる視覚障害学科の教科を修了した者
研修は、都道府県や指定された研修機関で実施されています。受講料や期間は、実施機関によって異なります。
同行援護と移動支援の違い ‐ より専門的な視覚障害者支援
同行援護とよく比較されるのが、「移動支援」です。どちらも障害者の外出を支援するサービスですが、いくつかの違いがあります。
- 根拠法とサービスの位置づけ:
- 同行援護:障害者総合支援法に基づく「自立支援給付」であり、全国一律の基準で提供されるサービスです。
- 移動支援:障害者総合支援法に基づく「地域生活支援事業」の一つであり、市町村が主体となって実施するサービスです。そのため、サービス内容や利用条件は、市町村によって異なります。
- 対象者:
- 同行援護:視覚障害により移動に著しい困難を有する方
- 移動支援:障害の種類を問わず、移動に支援が必要であると市町村が認めた方
- サービス内容:
- 同行援護:視覚的情報の支援(代筆・代読を含む)、移動の援護、排せつ・食事等の介護など、視覚障害者に特化した専門的なサービスを提供します。
- 移動支援:外出時の移動の支援が中心ですが、サービス内容は市町村によって異なります。視覚的情報の支援は、必ずしも含まれていません。
同行援護は、移動支援に比べて、より視覚障害に特化した専門性の高いサービスであると言えます。
同行援護に関するQ&A ‐ よくある疑問を解消
- 同行援護は、どのような外出に利用できますか?
- 通勤、営業活動、通年かつ長期にわたる外出、宗教活動、政治活動、反社会的な活動などを除き、日常生活に必要な外出や社会参加のための外出に利用できます。例えば、買い物、通院、余暇活動、冠婚葬祭、選挙の投票、お墓参りなど、幅広い目的に利用できます。
- 同行援護は、介護保険サービスと併用できますか?
- 同行援護は、介護保険サービスにはない独自のサービスであり、介護保険の利用者であっても利用できます。介護保険サービスとの優先関係はありません。
- 同行援護を利用して通院する場合、院内での付き添いもお願いできますか?
- はい、可能です。同行援護は、視覚的情報の提供を主な目的とするサービスですので、院内での付き添いも重要なサービスの一つです。
- 同行援護の利用時間に制限はありますか?
- 国が定める利用時間の上限はありません。各市町村が、利用者の状況や申請内容に基づいて、個別に支給決定を行います。
- 同行援護の利用中に、ガイドヘルパーに代筆や代読をお願いできますか?
- はい、可能です。外出先での代筆・代読は、同行援護のサービス内容に含まれています。ただし、不動産売買契約書や重要な同意書など、財産や命に関わる書類の代筆はできません。
- 同行援護は、1日に複数回利用できますか?
- はい、可能です。1か月の支給量の範囲内であれば、1日に複数回利用することもできます。ただし、利用する事業所の営業時間や、他の利用者との兼ね合いなどもありますので、事前に事業所と相談して利用計画を立てることが大切です。
- 同行援護は、自宅以外から出発したり、自宅以外で解散したりできますか?
- はい、可能です。同行援護は、必ずしも自宅を発着地とする必要はありません。例えば、外出先で待ち合わせてサービスを開始したり、外出先で解散したりすることも可能です。ただし、事業所によっては対応できない場合もありますので、事前に確認が必要です。
- 同行援護の利用中に、ガイドヘルパーの自家用車に乗せてもらえますか?
- いいえ、原則としてできません。同行援護は、徒歩または公共交通機関を利用して移動することを前提としています。ガイドヘルパーの自家用車を利用することは、サービスの範囲外となり、ガイドヘルパーが運転する場合、運転している時間帯については、報酬請求の対象外となります。
- 同行援護の事業所は、どのように探せばよいですか?
- お住まいの市町村の障害福祉窓口に相談するのが、最も確実な方法です。窓口では、地域の同行援護事業所の情報を提供してくれたり、利用手続きの相談に乗ってくれたりします。また、インターネットで検索したり、視覚障害者の関係団体に問い合わせたりするのも、情報収集の一つの方法です。
まとめ ‐ 同行援護で視覚障害者の社会参加を促進
同行援護は、視覚障害者の外出を支援し、社会参加を促進するための重要な制度です。専門的な知識と技術を持った同行援護従業者が、利用者の「目」となり、情報提供や移動の援護、身体介護など、多様なサービスを提供することで、視覚障害者の生活の質を向上させることができます。
同行援護の利用を検討されている方、同行援護の仕事に興味のある方は、この記事を参考に、制度の理解を深め、適切な行動につなげていただければ幸いです。
視覚障害者の「外出したい」という思いを支える同行援護。この制度が、より多くの視覚障害者に利用され、彼らの社会参加がさらに進むことを願っています。