役員報酬の決め方完全ガイド【税理士監修】 – 金額設定・変更・注意点を徹底解説


はじめに – 役員報酬はなぜ重要?適切な決め方が会社と個人の未来を変える
会社を経営する上で、「役員報酬をいくらにするか?」は非常に重要な問題です。役員報酬は、会社の利益、役員個人の手取り、そして支払う税金の額に大きく影響します。
もし、役員報酬の決め方を間違えてしまうと…
- 税務調査で否認され、追徴課税が発生する
- 会社の資金繰りが悪化し、経営が不安定になる
- 役員個人のモチベーションが低下し、業績に悪影響が出る
などのリスクがあります。
本記事では、役員報酬の基本的なルールから、具体的な金額の決め方、変更手続き、注意点まで、税理士が徹底的に解説します。 この記事を読めば、あなたも役員報酬のプロになれるはずです!
役員報酬の基本ルール – 従業員の給与との違いを理解する
まずは、役員報酬の基本をしっかり押さえましょう。役員報酬と従業員への給与は、全くの別物です。
(損金とは)
法人税法上の経費を損金といいます。費用が損金として認められることを損金算入といい、損金として認められないことを損金不算入といいます。
役員報酬とは?定義と会社法上の位置づけ
役員報酬とは、株式会社の取締役、会計参与、監査役などの「役員」に対して支払われる報酬のことです。 役員は、会社との間で雇用契約ではなく、委任契約を結び、経営の重要な役割を担います。
【図解】役員報酬と従業員給与、ココが違う!(税法・社会保険・労働保険)
項目 | 役員報酬 | 従業員給与 |
---|---|---|
税法上の扱い | 原則、全額損金不算入。一定の要件を満たす場合のみ損金算入可。 | 原則、全額損金算入可。 |
決め方 | 定款または株主総会の決議 | 労働契約、就業規則、給与規定 |
金額の変更 | 原則、事業年度を通じて一定。事業年度開始から3ヶ月以内の変更は可能。(例外あり) | 労働契約の内容変更、昇給・降給などにより、随時変更が可能。 |
割増賃金 | なし | あり(時間外労働、休日労働、深夜労働) |
最低賃金 | なし | あり |
労働保険 | 原則、雇用保険・労災保険は適用なし | 原則、雇用保険・労災保険は適用あり |
社会保険 | 健康保険・厚生年金保険は適用あり(非常勤役員など、一部例外あり) | 健康保険・厚生年金保険は適用あり(パートタイマー・アルバイトは、一定の労働時間以上で加入義務あり) |
日割り計算 | 不可 | 可能 |
損金算入できる役員報酬 – 3つの種類と要件を解説
法人税法上、損金として認められる役員報酬には、以下の3種類があります。
- 定期同額給与:
- 最も一般的な役員報酬の形態です。
- 毎月同額を支給することが条件です。
- 事業年度開始の日から3ヶ月以内に決定する必要があります(通常は、定時株主総会で決議)。
- 原則として、事業年度途中の増額・減額は認められません(例外規定については後述)。
- 税務署への届出は不要です。
- 事前確定届出給与:
- 役員賞与(ボーナス)を損金算入するための唯一の方法です。
- 事前に税務署へ「事前確定届出給与に関する届出書」を提出する必要があります。
- 届出期限:
- 株主総会等の決議日から1ヶ月以内
- 会計期間開始の日(事業年度開始の日)から4ヶ月以内
- 上記いずれか早い日
- 会社設立時の届出期限:設立の日以後2ヶ月以内
- 届出期限:
- 届出書に記載した支給日に、記載した金額を正確に支給しなければなりません(1日でも1円でも違うと損金不算入)。
- 業績連動給与:
- 会社の利益などの業績指標に連動して支給する役員報酬です。
- 厳しい要件があり、多くの中小企業では利用が難しいのが現状です。
- 客観的な指標に基づく算定方法であること
- 有価証券報告書への開示
- 同族会社は、一定の要件を満たす場合のみ利用可能
役員報酬の金額の決め方 – 5ステップで最適額を算出
役員報酬の金額は、以下の5つのステップで決定します。
ステップ1:年間利益を予測する
まずは、向こう1年間の売上高、売上原価、販売費及び一般管理費(販管費)などを予測し、年間の利益見込みを算出します。 できるだけ正確な予測を立てることが重要です。
ステップ2:役員報酬の総額を決定する
年間の利益見込みを参考に、役員報酬の総額(上限額)を決定します。 ここで重要なのが、以下の3つのバランスを考慮することです。
- 会社の利益:役員報酬を多くすると、会社の利益は減ります。
- 役員個人の所得税・社会保険料:役員報酬を多くすると、役員個人の所得税・社会保険料は増えます。
- 会社の法人税等:役員報酬を多くすると、会社の法人税等は少なくなります。
税理士と相談し、シミュレーションを行いながら、最適な役員報酬総額を決定しましょう。
ステップ3:役員ごとの報酬額を決定する
役員報酬の総額の範囲内で、各役員の役割、貢献度、経験などを考慮して、個別の報酬額を決定します。 客観的な基準に基づいて、公平に決定することが大切です。
ステップ4:株主総会・取締役会で決議する(議事録作成のポイント)
通役員報酬は、株主総会の決議によって定めます。
- 通常は、株主総会で役員報酬の総額(上限額)を決定し、具体的な配分は取締役会(取締役会非設置会社の場合は取締役の決定)に委ねます。
- 小規模な会社などでは、株主総会で個別の役員報酬額まで決定することもあります。
いずれの場合も、株主総会の議事録は必ず作成し、保管しておきましょう。 議事録は、税務調査の際に重要な証拠書類となります。役員報酬の金額、決定の経緯、決定に関与した役員などを明確に記載してください。役員などを明確に記載してください。
事前確定届出給与(役員賞与)を支給する場合は、本ステップで決議した内容に基づき、「事前確定届出給与に関する届出書」を作成し、税務署へ提出します。
役員報酬の相場は?資本金別・業種別データで確認
役員報酬の金額に、明確な決まりはありません。しかし、同業他社や同規模の会社と比較して、著しく高額な役員報酬は、税務署から否認されるリスクがあります。
国税庁の「民間給与実態統計調査」などのデータを参考に、役員報酬の相場を確認しておきましょう。
(※ ここでは、具体的な数値データは割愛します。最新の調査結果をご自身でご確認ください。)
役員報酬は変更できる?増額・減額の条件と手続き
原則として、事業年度の途中で役員報酬を変更することはできません。しかし、例外的に変更が認められるケースがあります。
原則、年度途中の変更はNG!例外的に認められるケースとは?
役員報酬の変更が認められるのは、以下の2つのケースです。
- 臨時改定事由による変更(増額・減額)
- 業績悪化改定事由による減額
臨時改定事由による役員報酬の変更(増額・減額)
臨時改定事由とは、役員の職制上の地位の変更、職務内容の重大な変更など、やむを得ない事情のことです。
- 具体例:
- 取締役から代表取締役への昇格(増額)
- 代表取締役から取締役への降格(減額)
- 役員の職務内容の大幅な変更(増額・減額)
- 役員の病気やケガによる長期休職(減額)
- 手続き:
- 臨時株主総会または取締役会を開催し、役員報酬の変更を決議
- 議事録を作成(変更の理由、変更後の金額、変更日などを明記)
業績悪化改定事由による役員報酬の減額
業績悪化改定事由とは、経営状況が著しく悪化し、株主、取引先、金融機関などとの関係上、役員報酬の減額がやむを得ないと認められる場合を指します。
- 具体例:
- 業績の大幅な悪化によるリストラ
- 銀行からの融資条件としての役員報酬減額
- 取引先からの信用維持のための役員報酬減額
- 注意点:
- 単なる業績目標未達や、一時的な資金繰りの悪化は、業績悪化改定事由には該当しません。
- 客観的に見て、役員報酬の減額がやむを得ない状況である必要があります。
- 手続き:
- 臨時株主総会または取締役会を開催し、役員報酬の減額を決議
- 議事録を作成(減額の理由、減額後の金額、減額日などを明記)
役員報酬変更時の注意点 – 税務署への説明準備
役員報酬を変更した場合は、税務調査で変更の理由を詳しく聞かれる可能性があります。 変更の理由を明確に説明できるように、議事録などの資料をきちんと整備しておきましょう。
役員報酬で失敗しないための注意点 – 税務調査対策
役員報酬は、税務調査で重点的にチェックされる項目のひとつです。 以下の点に注意し、税務調査で否認されないようにしましょう。
不相当に高額な役員報酬は否認される!判断基準と対策
同業他社や同規模の会社と比較して、不相当に高額な役員報酬は、税務署から否認される可能性があります。役員報酬の金額は、以下の要素などを総合的に考慮して、客観的に判断されます。
- 役員の職務内容
- 会社の収益状況
- 従業員給与の水準
- 同業他社の役員報酬の相場
税理士と相談し、適切な金額を設定しましょう。
みなし役員への報酬も要注意!役員報酬の範囲とは?
法人税法では、形式上の役員だけでなく、「みなし役員」という概念があります。これは、役員登記されていなくても、実質的に会社の経営に従事している者を指します。そして、このみなし役員に対して支払われる報酬も、税務上は役員報酬として取り扱われるため注意が必要です。例えば、経営者の親族で、役員ではないものの、経営に深く関与している場合などが該当します。
使用人兼務役員 – 給与と役員報酬、どう分ける?
使用人兼務役員(取締役兼部長など)の場合、従業員としての職務に対する給与は、従業員給与として損金算入できます。 しかし、役員としての職務に対する報酬は、役員報酬として扱われます。
税務調査でよくある指摘事項と対策
- 役員報酬の決定手続きが不適切(議事録がない、株主総会・取締役会が開催されていないなど)
- 役員報酬の金額が不相当に高額
- 事業年度途中で役員報酬を変更している(正当な理由がない)
- 事前確定届出給与の届出をしていない、または届出と異なる支給をしている
税務調査で指摘を受けないためには、
- 役員報酬の決定手続きを適正に行う
- 役員報酬の金額を適正に設定する
- 役員報酬の変更は、原則として行わない(やむを得ない場合は、適切な手続きを行う)
- 事前確定届出給与のルールを守る
ことが重要です。
役員報酬に関するよくある質問(Q&A)
- 役員報酬はいつまでに決めればいいですか?
- 定期同額給与の場合、事業年度開始の日から3ヶ月以内に決定する必要があります。通常は、定時株主総会で決議します。
- 役員報酬は日割り計算できますか?
- 役員報酬は、日割り計算できません。月の途中で就任または退任した場合でも、原則として、月額の全額を支給または不支給とします。
- 役員報酬を支払えない場合はどうなりますか?
- 役員報酬を支払えない場合は、未払費用として会社の負債に計上します。資金繰りが厳しい場合は、役員報酬の減額を検討する必要があります(業績悪化改定事由に該当する場合)。
- 役員報酬の決定に税理士は必要ですか?
- 役員報酬の決定は、税務上の影響が大きいため、税理士に相談することを強くお勧めします。 税理士は、役員報酬の最適な金額、損金算入の要件、税務調査対策などについて、専門的なアドバイスを提供してくれます。
- 役員報酬と社会保険料の関係は?
- 役員報酬は、健康保険・厚生年金保険の保険料の算定基礎となります。役員報酬が高いほど、保険料も高くなります。
まとめ – 役員報酬は戦略的に決定!専門家と相談し、最適なプランを
役員報酬は、会社の経営戦略、税務、役員個人の生活設計など、様々な要素が絡み合う複雑な問題です。 本記事で解説した内容を参考に、税理士などの専門家とも相談しながら、自社にとって最適な役員報酬を決定しましょう。 適切な役員報酬の設定は、会社の持続的な成長と、役員のモチベーション向上に繋がります。