近年、インバウンド需要の回復や国内旅行のスタイルの変化により、「民泊」が注目を集めています。空き家や自宅の一部を活用して収益を得られる可能性がある一方、適切な手続きを踏まずに運営すると法的なトラブルに発展するリスクも。
「民泊を始めたいけど、何から手をつければいいの?」 「許可や届出って、どんな種類があるの?」 「費用はどれくらいかかる?消防法とか難しそう…」
この記事では、そんな疑問をお持ちの方に向けて、民泊開業に必要な許可・届出の全体像から具体的な手続き、関連する法律、費用、そして専門家である行政書士への相談メリットまで、網羅的に解説します。
目次
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民泊とは? 3つの運営方法を知ろう
「民泊」と一言で言っても、その運営形態は法律によって大きく3つに分けられます。それぞれにルールや手続き、メリット・デメリットが異なるため、ご自身の状況や目指す運営スタイルに合わせて最適な方法を選ぶことが重要です。
- 住宅宿泊事業法(民泊新法)に基づく民泊
- 2018年に施行された比較的新しい法律。
- 都道府県知事等への「届出」で始められる。
- 年間営業日数が180日以内に制限される(自治体条例でさらに短縮される場合あり)。
- 手続きが比較的簡便で、参入しやすいのが特徴。
- 旅館業法に基づく民泊(主に簡易宿所営業)
- ホテルや旅館と同じ旅館業法に基づく形態。
- 保健所の「許可」が必要。
- 年間営業日数の制限がないため、本格的な事業展開が可能。
- 施設基準や用途地域(営業できる場所)の要件が比較的厳しい。
- 国家戦略特別区域法に基づく民泊(特区民泊)
- 国が指定した「国家戦略特区」内でのみ可能な形態。
- 都道府県知事等の「認定」が必要。
- 年間営業日数の制限がない。
- 原則として2泊3日以上の最低宿泊日数が定められている。
- 実施可能な地域が限られている(例:東京都大田区、大阪市など)。
まずは、この3つの選択肢があることを理解し、それぞれの特徴を比較検討することから始めましょう。
住宅宿泊事業法(民泊新法)での開業:届出の手続きとポイント

住宅宿泊事業法(民泊新法)での開業
届出の手続きとポイント
最も手軽に始めやすいのが、この住宅宿泊事業法に基づく民泊です。ここでは、その詳細を見ていきましょう。
住宅宿泊事業法のメリット・デメリット
- メリット
- 手続きが「届出」であり、旅館業法の「許可」よりハードルが低い。
- 旅館業法では営業できない住居専用地域でも原則として営業可能(ただし、自治体条例による制限に注意)。
- 初期費用を抑えやすい可能性がある。
- 建築基準法上の「用途変更」手続きが不要となるケースが多い。
- デメリット
- 年間営業日数が180日に制限されるため、収益に上限がある(さらに自治体条例で制限される可能性も)。
- 家主が不在の場合(または居室数が5を超える場合)は、登録された「住宅宿泊管理業者」への管理委託が必須となり、コストがかかる。
届出のための主な要件
- 対象となる「住宅」
- 人が居住するための家屋であること。
- 設備要件
台所、浴室、便所、洗面設備が備わっていること。
- 居住要件
以下のいずれかを満たすこと。
- 現に人の生活の本拠として使用されている家屋(自宅など)
- 入居者の募集が行われている家屋(賃貸・売買募集中)
- 随時その所有者等の居住の用に供されている家屋(別荘、セカンドハウスなど。ただし、民泊専用の新築投資物件は該当しない可能性が高い)
- 届出者の資格
- 欠格事由(破産者で復権を得ない者、特定の法律違反で罰金刑を受けてから3年未満の者など)に該当しないこと。
- 運営体制
- 衛生管理、安全確保、外国人宿泊者への対応、近隣住民への配慮(騒音防止等の説明、苦情対応)、宿泊者名簿の作成・備付けなどが適切に行える体制があること。
届出の手続きの流れ
- 事前相談
- 物件所在地の保健所に必ず事前相談しましょう。消防署、建築指導課、清掃事務所など、関係各所への相談も必要になる場合が多いです。自治体によっては事前相談が必須です。この段階で、物件が要件を満たすか、どのような書類や準備が必要かを確認します。
- 書類準備
- 保健所や自治体のウェブサイトで必要書類を確認し、準備します。登記事項証明書、物件の図面(正確なものが必要)、消防法令適合通知書、賃貸の場合は所有者の承諾書、マンションの場合は管理規約(民泊禁止でないか確認)や管理組合の承諾(必要な場合)など、多岐にわたります。
- オンライン届出
- 原則として、観光庁の「民泊制度運営システム」を通じてオンラインで届出を行います。アカウント登録や電子証明書が必要になる場合があります。
- 審査
- 提出された書類を保健所が審査します。書類の不備や要件を満たさない場合は受理されません。
- 届出受理・標識の受領と掲示
- 書類が適正と認められれば受理され、届出番号と標識(ステッカー等)が交付されます。この標識を玄関など、公衆の見やすい場所に速やかに掲示する必要があります。
- 事業開始
- 定期報告
- 事業開始後は、毎年4月、6月、8月、10月、12月、2月の15日までに、それぞれ前々月1日から末日までの宿泊日数、宿泊者数などを民泊制度運営システムで報告する義務があります。
運営上の主な義務
- 衛生確保: 宿泊者一人あたり3.3㎡以上の居室面積確保、定期的な清掃・換気の実施。
- 安全確保: 非常用照明器具の設置、避難経路の表示など(消防法とも関連)。
- 外国人対応: 設備の使用方法などについて外国語での案内提供。
- 宿泊者名簿: 作成・備付け(3年間保存)、本人確認の実施(外国人の場合は旅券確認も)。
- 周辺環境への配慮: 騒音防止、ゴミ処理ルール等の説明(外国語含む)、周辺住民からの苦情への適切かつ迅速な対応。
- 管理委託(家主不在型等): 登録された住宅宿泊管理業者への委託(家主が不在となる場合、または居室数が5を超える場合)。
- 標識掲示: 常に掲示。
- 定期報告: 年6回の実績報告。
旅館業法(簡易宿所)での開業:許可申請の手続きとポイント

旅館業法(簡易宿所)での開業
許可申請の手続きとポイント
年間180日を超えて本格的に民泊事業を行いたい場合は、旅館業法の許可(主に「簡易宿所営業」)を取得する必要があります。
旅館業法(簡易宿所)のメリット・デメリット
- メリット
- 年間営業日数の制限がない(365日営業可能)。
- 住宅宿泊事業法のような管理委託義務がない。
- デメリット
- 「許可」が必要で、届出よりも手続きや審査が厳しい。
- 営業できる用途地域が限られ、住居専用地域では原則営業できない。
- 施設基準(最低床面積、設備など)を満たす必要がある。
- 玄関帳場(フロント)の設置、または代替措置(ICT活用+10分以内の駆けつけ体制など)が必要となり、運営上の負担が大きい場合がある。
- 建築基準法上の「用途変更」確認申請が必要となる可能性が民泊新法より高い。
許可のための主な要件
- 施設基準
- 客室延床面積
原則33㎡以上。ただし宿泊定員10人未満の場合は、宿泊者一人あたり3.3㎡以上の面積があれば足りる。
- 設備
適当な換気、採光、照明、防湿、排水設備、入浴設備(近隣に公衆浴場がある等の場合は不要な場合あり)、定員に応じた洗面設備、トイレなど。
- 玄関帳場(フロント)
設置が望ましい。設置しない場合は、①宿泊者名簿の正確な記載等のための措置(カメラ付きインターホン等)、②緊急時の迅速な対応体制(概ね10分以内に駆けつけられる体制等)の両方を満たす代替措置が必要。
- 用途地域
- 第一種・第二種低層住居専用地域、第一種・第二種中高層住居専用地域などでは原則不可。営業可能な地域(第一種・第二種住居地域、準住居地域、近隣商業地域、商業地域、準工業地域など)が限定される。
- その他
- 消防法への適合は必須。衛生管理基準(換気、清潔保持など)も定められている。
許可申請の手続きの流れ
- 事前相談
- 保健所および消防署への事前相談が非常に重要です。建築基準法や都市計画法に関わる場合は、自治体の建築指導課や都市計画課などへの相談も必須です。この段階で、計画が法令に適合するか、どのような改修が必要かなどを確認します。
- 書類準備
- 申請書、施設の構造設備を明らかにする図面(詳細なもの)、登記事項証明書、消防法令適合通知書、水質検査成績書(井戸水等の場合)など、必要な書類を揃えます。
- 申請書提出・手数料納付
- 管轄の保健所に申請書類を提出し、申請手数料(自治体により異なるが、数万円程度)を納付します。
- 施設検査
- 申請後、保健所職員による立入検査が行われ、施設が図面通りであり、構造設備基準等に適合しているか確認されます。消防署による検査も行われます。
- 許可証交付
- 検査で問題がなく、基準に適合していると認められれば、許可証が交付されます。
- 事業開始
特区民泊での開業:認定の手続きとポイント
特定の地域(国家戦略特区)で民泊を行う場合に選択肢となるのが特区民泊です。
特区民泊のメリット・デメリット
- メリット
- 年間営業日数の制限がない。
- 住宅宿泊事業法のような管理委託義務がない。
- 旅館業法では営業できない用途地域(例:住居専用地域)で営業が認められる場合がある(特区条例による)。
- デメリット
- 実施できる地域が非常に限られている(東京都大田区、大阪府・市、千葉市、新潟市、北九州市など一部のみ)。
- 最低宿泊日数が原則2泊3日以上と定められている。
- 近隣住民への事前説明が義務付けられている。
- 一居室あたりの最低床面積が原則25㎡以上と、住宅宿泊事業法より広いスペースが必要。
認定のための主な要件
- 実施地域
- 最低宿泊日数
- 施設基準
- 居室面積
原則として25㎡以上(自治体の判断で変更可能な場合あり)。
- 設備
台所、浴室、便所、洗面設備など。適切な換気、採光、照明等の設備も必要。
- 外国語対応
施設の使用方法に関する外国語(日本語+1言語以上)での案内や、緊急時連絡先の情報提供。
- 運営体制
- 近隣説明
事業計画等について、認定申請前に、施設の周辺地域の住民に対し、説明会を開催する等の方法で適切な説明を行うことが義務付けられている。説明記録の提出も必要。
- 苦情対応体制
周辺住民からの苦情及び問い合わせに適切かつ迅速に対応するための体制(連絡先明示等)を整備し、周知すること。
- 宿泊者名簿
作成・備付け(3年間保存)、本人確認。
- 廃棄物処理
事業系ごみとして適正に処理。
認定申請の手続きの流れ
- 事前相談
- 保健所(または特区担当部署)、消防署、建築担当課、廃棄物担当課など、関係各所への事前相談が必要です。
- 近隣住民への説明
- 条例で定められた方法に従い、事業計画等について周辺住民へ説明を行います。
- 書類準備・申請
- 認定申請書、施設の図面、登記事項証明書、近隣説明の実施記録、消防法令適合通知書などを揃え、管轄の保健所等に提出し、認定手数料(2万円程度)を納付します。
- 審査・現地調査
- 認定書交付
- 審査の結果、基準を満たしていれば認定書が交付されます。
- 事業開始
どの民泊にも共通!重要な関連法規の遵守
どの形態で民泊を始めるにしても、以下の法律は必ず遵守しなければなりません。これらの対応を怠ると、事業を開始できなかったり、後で大きな問題になったりする可能性があります。
消防法:安全確保の最重要ポイント
民泊施設は、消防法上、ホテルや旅館と同様の「特定防火対象物」として扱われ、一般の住宅よりも厳しい防火安全基準が適用される場合があります。
- 要求される主な設備
- 消火器
- 自動火災報知設備: 警報で火災を知らせる設備。
- 非常用照明器具: 停電時に避難経路を照らす。
- 誘導灯・誘導標識: 避難口や方向を示す。
- その他、建物の状況に応じてスプリンクラー、屋内消火栓、避難器具などが必要な場合も。
- 注意点
実際にどの設備が必要かは、建物の規模、構造、階数、民泊として使用する部分の面積、家主の同居有無、戸建てか共同住宅かなど、個々の状況によって細かく異なります。一概には言えません。小規模な家主居住型の一部であれば軽微な追加で済む場合もありますが、大規模施設や家主不在型では本格的な設備が必要になる傾向があります。近年、小規模施設向けに設置が容易な無線式の自動火災報知設備(特定小規模施設用自動火災報知設備)が認められる範囲も広がっていますが、適用できるかは個別判断が必要です。
- 消防法令適合通知書
- 上記の基準を満たす設備等を設置し、消防署の検査を受けて「消防法令適合通知書」を取得することが、全ての民泊形態(届出・許可・認定)で必須です。これがなければ、事業を開始できません。
- 費用と相談の重要性
- 消防設備の設置費用は、必要な設備の種類によって数十万円から、場合によっては数百万円以上と非常に高額になる可能性があります。これは初期投資の大きな部分を占めるため、計画の極めて早い段階で、必ず管轄の消防署に相談し、必要な設備と概算費用を確認することが不可欠です。専門の消防設備業者への見積もり依頼も重要となります。
建築基準法:建物の安全性と用途
建物が構造的に安全であること(耐震性など)、火災等の際に安全に避難できる経路(通路幅、防火戸など)が確保されていることが求められます。古い建物の場合は、耐震診断や耐震補強工事が必要になることもあります。建築当時の基準には適合していても、現行基準には満たない「既存不適格建築物」の場合、注意が必要です。
- 用途変更
既存の建物(特に「住宅」)を民泊施設(特に旅館業法下の「ホテル・旅館」用途)として利用する場合、建築基準法上の「用途変更」の手続きが必要となる可能性があります。
- 200㎡の壁
ホテル・旅館等の「特殊建築物」への用途変更で、その用途に供する部分の床面積の合計が200㎡を超える場合は、原則として建築確認申請が必要となります(以前は100㎡超でしたが、規制緩和されました)。
- 確認申請が必要な場合の影響
確認申請が必要となると、建物全体が現行のより厳しい建築基準(耐火性能、避難規定等)に適合する必要が生じ、大幅な改修費用と手続きの複雑化を招く可能性があります。
- 民泊形態による違い
旅館業法の場合は「ホテル・旅館」用途と見なされやすく、200㎡超で確認申請が必要となる可能性が高いです。一方、住宅宿泊事業法は「住宅」での事業と位置づけられるため、用途変更手続きが不要となるケースが多いと考えられます。
- 事前確認の重要性
用途変更の要否や手続きについては、物件の状況によって判断が異なるため、必ず事前に自治体の建築指導課等に相談し、確認することが極めて重要です。
廃棄物処理法:ゴミは「事業系ごみ」
民泊事業(宿泊者が排出したものを含む)から出るごみは、家庭から出る「家庭系ごみ」ではなく、「事業系ごみ」として扱われます。排出事業者(民泊事業者)が「排出事業者」として、その適正な処理について責任を負います。家庭ごみ集積所への排出など、不適正な処理は違法行為であり、厳しい罰則の対象となります。
- 処理方法
- 許可業者への委託
自治体(一般廃棄物)から許可を受けた廃棄物処理業者と契約し、収集・運搬・処分を委託する(有料)。「事業系一般廃棄物」と「産業廃棄物」(もし発生する場合)に分別し、それぞれ対応する許可業者に委託する必要があります。
- 自己搬入
事業者自らが、自治体が指定する処理施設にごみを直接搬入する(有料、要事前確認)。
- 少量排出時の自治体収集(限定的)
ごみの排出量が少量の場合に限り、一部の自治体では、有料の「事業系ごみ処理券(シール)」を貼付することで、家庭ごみの収集ルートでの回収を認めている場合があります(制度の有無や条件は自治体ごとに大きく異なるため、要確認)。
- 事前相談と周知
- 民泊事業を開始する前に、必ず所在地の自治体の清掃担当部署に連絡し、事業系ごみの適正な処理方法(分別、保管場所、収集業者または自己搬入・有料シールの利用等)について相談・確認してください。一部自治体では報告書の提出等が求められます。また、宿泊者に対して、施設内でのごみの分別方法や排出ルールを明確に周知する必要があります(多言語対応含む)。
都市計画法:営業できる場所の制限
- 用途地域
市町村が定める用途地域によって、建築できる建物の種類や用途、そして民泊ができる場所が制限されます。
- 旅館業法
第一種・第二種低層住居専用地域、第一種・第二種中高層住居専用地域といった住居系の専用地域では原則営業できません。
- 住宅宿泊事業法
「住宅」が基本なので、旅館業法より広く、住居専用地域を含む多くの地域で原則として届出が可能です。しかし、最も注意が必要なのは、自治体が条例(上乗せ条例)によって、特定の住居専用地域等での営業を全面的に禁止したり、営業可能な曜日や期間を厳しく制限したりしている場合が多いことです。
- 特区民泊
営業可能な用途地域は、各国家戦略特区の条例によって定められます。旅館業が禁止されている住居専用地域での営業を認める特区もあります。
- 市街化調整区域
都市の無秩序な拡大を防ぐため、原則として新たな開発行為(建築物の新築、増改築等)や用途変更が厳しく制限されている区域です。この区域内で新たに民泊を開業することは、原則として非常に困難です。既存建物を活用する場合でも、家主不在型などは認められない可能性が高く、例外的に可能なケースでも許可取得のハードルは極めて高いです。
- 立地調査の重要性
物件の取得や賃借契約を結ぶ前に、必ず自治体の都市計画担当部署(または建築指導課等)に、①用途地域、②市街化調整区域の該否、③地域独自の条例(上乗せ条例)による営業日・区域の制限がないか、を徹底的に確認してください。これが事業計画の最初の、そして最も重要なステップとなります。
民泊開業にかかる費用は?初期投資と運営コスト
民泊開業には、様々な費用がかかります。事前にしっかりと把握し、資金計画を立てることが重要です。**特に改修費と消防設備費は、物件ごとに必要な対応が全く異なり、予算を大幅に超過する最大の要因となり得ます。**甘い見積もりは禁物です。
初期費用
- 公的手数料
- 住宅宿泊事業法(届出)
国への手数料は原則なし(自治体により条例で徴収の場合あり)。住民票等の書類取得実費は必要。
- 旅館業法(許可)
数万円程度(自治体により異なる)。
- 特区民泊(認定)
2万円程度(特区により異なる)。
- 物件取得・賃貸初期費用
- 購入または賃貸の場合。敷金、礼金、仲介手数料など。
- 改修・リフォーム費用
- 物件の状態により大きく変動します。 数十万円で済む場合もあれば、大規模改修で数百万円~数千万円規模になることも。水回り(キッチン、バス、トイレ)の改修は高額になりやすい傾向があります。
- 消防設備設置費用
- これも物件の状況や必要な設備によって費用が大きく変動し、数十万円~数百万円以上となる可能性があります。 正確な費用は、消防署との協議と専門業者による見積もりが不可欠です。
- 建築基準法適合費用
- 耐震補強、用途変更に伴う大規模改修などが必要な場合。
- 家具・家電・備品購入費用
- 数十万円程度~(ベッド、寝具、エアコン、冷蔵庫、電子レンジ、テレビ、Wi-Fiルーター、食器、リネン類など、施設の規模やグレードによる)。
- 専門家への依頼費用(任意)
- 行政書士
届出・許可・認定申請代行で十数万円~数十万円程度。住宅宿泊事業法で15~20万円程度、旅館業法で20~35万円以上、特区民泊で16~25万円以上が目安ですが、案件の複雑さにより変動します。相談料、図面作成料などが別途の場合も。
- 建築士、消防設備士など
設計・工事監理・見積もり等。
運営費用(継続的にかかる費用)
- 水道光熱費
- インターネット通信費
- 清掃費(外部委託の場合、1回数千円~1万円以上が目安)
- リネンサプライ費(シーツ、タオル等の洗濯・交換)
- 消耗品費(シャンプー、石鹸、トイレットペーパー、ティッシュなど)
- 予約サイト(OTA)手数料(売上の数%~20%程度が一般的)
- 廃棄物処理費用(業者契約料または有料シール代など)
- 住宅宿泊管理業者への委託費用(家主不在型や居室数5超の場合、売上の15~20%+清掃費などが目安)
- 損害保険料(火災保険、賠償責任保険など)
- 各種税金(所得税、住民税、固定資産税、事業税、消費税(課税事業者になる場合)など)
- 設備の維持管理・修繕費
予算策定上の注意点
初期投資、特に改修費と消防設備費は、物件の個別性が非常に高く、見積もり額が大きく変動する可能性があります。これらは予算超過の主要因となり得るため、事業計画の初期段階で、専門家(建築士、消防設備士等)による詳細な物件調査と、それに基づく正確な見積もりを取得することが、現実的な資金計画と事業の成否にとって極めて重要です。これらのコストを過小評価することは、プロジェクト頓挫のリスクを高めます。物件取得や賃貸契約、大規模改修工事の前に、必ずこれらの費用感を把握しましょう。
複雑な手続きは専門家へ!行政書士に相談・依頼するメリット

複雑な手続きは専門家へ!
行政書士に相談・依頼するメリット
ここまで見てきたように、民泊の開業には複雑な法規制や手続きが伴います。特に初めての方や、本業が忙しい方にとっては、大きな負担となり得ます。
そんな時、頼りになるのが行政書士です。行政書士は、官公署に提出する書類の作成や申請代理の専門家であり、民泊の届出・許可・認定手続きをサポートしてくれます。
行政書士に依頼するメリット
- 時間と労力の節約
面倒な書類作成や関係機関(保健所、消防署、役所など)との煩雑なやり取りを代行してもらえる。
- 手続きの正確性と迅速化
専門知識に基づき、最新の法令や地域の条例を確認し、ミスなくスムーズに申請を進められる可能性が高い。
- 複雑な法令・条例の調査・アドバイス
どの法的枠組みが最適か、必要な要件は何かなど、専門的な視点からアドバイスを受けられる。
- 関係機関との連携
保健所、消防署、役所など、複数の関係機関との協議や調整を代行またはサポートしてくれる。
- 精神的な負担の軽減
不安や疑問点を相談でき、安心して開業準備を進められる。
行政書士への依頼費用
- 業務内容や事務所によって異なりますが、以下は一般的な目安です。
- 住宅宿泊事業法(届出)代行:15万円~20万円程度
- 旅館業法(簡易宿所)許可代行:20万円~35万円以上
- 特区民泊(認定)代行:16万円~25万円以上
- 上記はあくまで目安であり、物件の状況、手続きの難易度、依頼する業務範囲(例:図面作成や消防署協議のサポートを含むか等)によって費用は大きく変動します。相談料が別途必要な場合もあります。複数の事務所から見積もりを取り、サービス内容と費用を比較検討することをお勧めします。
費用はかかりますが、時間的・精神的なコスト削減や、手続きの確実性向上、法令違反リスクの低減といったメリットを考慮すると、特に日本の行政手続きに不慣れな方、時間的余裕がない方、あるいは物件に複雑な要因(改修、用途地域、権利関係等)がある場合には、行政書士への依頼は有効な投資と言えるでしょう。
まとめ:成功する民泊開業のために
民泊開業は、法規制の正確な理解と適切な手続きが成功の鍵を握ります。
- 3つの選択肢(住宅宿泊事業法、旅館業法、特区民泊)の特徴を理解し、自分の目標、予算、物件の立地や特性に合った方法を選ぶ。
- 関連法規(特に消防法、建築基準法、都市計画法、廃棄物処理法)を遵守する。単に法律を知るだけでなく、自分の物件に具体的にどう適用されるかを確認する。
- 物件の立地調査を徹底する。①用途地域、②市街化調整区域の該否、③自治体独自の条例(上乗せ条例)による営業日・区域制限の有無を、契約前に必ず確認する。
- 費用、特に変動の大きい初期費用(改修費、消防設備費)を正確に見積もる。専門家の助けを借り、余裕を持った資金計画を立てる。
- 計画の極めて初期段階から、管轄の保健所、消防署、役所の担当部署(建築指導課、都市計画課、清掃担当部署など)に必ず事前相談し、連携をとる。
- 複雑な手続きや法解釈、書類作成に不安がある場合は、無理せず行政書士などの専門家に相談・依頼することを検討する。
民泊は魅力的な事業ですが、安易な考えで始めると、予期せぬコストや法的な問題に直面するリスクもあります。本記事を参考に、しっかりと情報収集と準備を進め、安全で、地域社会からも歓迎されるような民泊運営を目指してください。
もし、手続きの代行や具体的なアドバイスが必要な場合は、ぜひお近くの民泊業務に詳しい行政書士にご相談ください。あなたの民泊開業を力強くサポートしてくれるはずです。
参考資料
コラム:民泊新法(住宅宿泊事業法)とは
空いている家やマンションの一室などを活用して旅行者等に宿泊サービスを提供する「民泊」。その急速な普及に伴い、ルール整備の必要性が高まり、2018年6月15日に施行されたのが、通称「民泊新法」と呼ばれる「住宅宿泊事業法」です。この法律により、一定のルールの下で住宅を活用した宿泊事業が可能になりました。今回はその主なポイントを解説します。
届出制と年間営業日数180日以内が基本ルール
民泊新法に基づく住宅宿泊事業(民泊)を行うためには、従来の旅館業法のような「許可」ではなく、都道府県知事等(保健所設置市や特別区では市長・区長)へ「届出」を行う必要があります。これにより、既存の住宅を活用して比較的容易に民泊事業を始められるようになりました。ただし、大きな特徴として、住宅を提供して人を宿泊させる日数は、年間で180日(泊)を超えてはならないという上限が定められています。さらに、地域の実情に応じて、自治体が条例で営業可能な区域や期間を独自に制限している場合もあります。
家主居住型と家主不在型、管理業者の役割
住宅宿泊事業法では、民泊の形態を大きく二つに分けてルールを定めています。一つは、家主(住宅所有者等)が同じ建物に住みながら一部の部屋を提供する「家主居住型」、もう一つは家主が居住しない家や別荘などを利用する「家主不在型」です。家主不在型の場合や、家主居住型でも部屋数が一定(5部屋)を超える場合など、家主が適切に管理業務を行えない状況では、国土交通大臣の登録を受けた「住宅宿泊管理業者」に、宿泊者の衛生確保、騒音防止の説明、苦情対応、宿泊者名簿の作成・備付けといった管理業務を委託することが義務付けられています。
コラム:国家戦略特区とは
日本経済の再生と国際競争力の強化を目的として、「岩盤規制」と呼ばれる長年見直されずにきた規制を打破するために導入された制度が「国家戦略特別区域(国家戦略特区)」です。国が指定した特定の地域において、地域や産業のニーズに応じた大胆な規制緩和や税制上の優遇措置などを実施し、新たな事業やイノベーションを生み出すことを目指しています。
制度の目的:「世界で一番ビジネスをしやすい環境」の実現
国家戦略特区制度は、安倍政権下での成長戦略(アベノミクス)の重要な柱の一つとして創設されました。「世界で一番ビジネスをしやすい環境」を創り出すことを目標に掲げ、国が地域や分野を限定して特区を指定します。指定された区域内では、国、地方公共団体、そして民間事業者が三位一体となって連携し、医療、農業、雇用、都市再生、教育、創業支援など、様々な分野で従来の規制にとらわれない新しい取り組みや事業展開を可能にするための規制・制度改革を集中的に進めます。
規制緩和による具体的な効果と今後の展望
この国家戦略特区制度を活用することで、これまで実現が難しかった様々なプロジェクトが進められています。例えば、ドローンを活用した物流サービスの実証実験や、外国人医師の診療区域の拡大、都市部における容積率の大幅な緩和による再開発の促進、特定の条件下での農地転用の迅速化などが挙げられます。今後も、社会経済情勢の変化や技術革新に対応した新たな規制改革メニューが検討・追加され、日本の持続的な成長を後押しする起爆剤としての役割が期待されています。
コラム:保健所とは
私たちの健康や地域の衛生環境を守るために、非常に重要な役割を果たしている公的な機関「保健所」。感染症の流行時などにその名前を耳にすることも多いですが、具体的にどのような業務を行っているのでしょうか。地域住民の健康増進と公衆衛生の向上を使命とする保健所の役割について解説します。
幅広い分野をカバーする保健所の主な業務
保健所の業務は、私たちが考える以上に多岐にわたっています。新型コロナウイルス感染症のような新しい感染症から、結核や性感染症など従来からの感染症まで、その発生予防、まん延防止対策、相談・検査などを担当します。また、母子健康手帳の交付に関わる業務や、妊娠・出産・育児に関する相談・支援(母子保健)、心の健康に関する相談(精神保健福祉)、難病患者の方への支援なども重要な業務です。さらに、飲食店や食品製造業の営業許可、水道や公衆浴場、理美容所などの衛生監視・指導(環境衛生・食品衛生)も行い、地域全体の安全と衛生を守っています。
地域における健康相談・情報提供の窓口
保健所は、これらの専門的な業務を行うだけでなく、地域住民にとって身近な健康に関する相談窓口でもあります。医師、保健師、栄養士、精神保健福祉士、獣医師、薬剤師、衛生監視員など、様々な専門職が配置されており、健康上の悩みや不安について相談することができます。健康に関する正しい情報提供や、健康教室の開催などを通じて、地域住民の健康意識を高め、生活習慣病予防などにも取り組んでいます。各都道府県や主要な市などには、それぞれの地域を担当する保健所が設置されており、地域保健活動の拠点となっています。
コラム:民泊届出件数ランキング(2025年3月14日時点)
住宅宿泊事業法に基づく、都道府県、保健所設置市、特別区(東京都)の届出件数総合ランキング。民泊制度ポータルサイト「minpaku」の情報に基づいて作成。
全国都道府県別ランキング
№ | 都道府県 | 届出件数 | 事業廃止件数 |
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1 | 東京都 | 19,617 | 6,837 |
2 | 北海道 | 5,805 | 2,859 |
3 | 大阪府 | 5,557 | 3,522 |
4 | 福岡県 | 2,246 | 1,110 |
5 | 沖縄県 | 2,040 | 710 |
6 | 京都府 | 1,370 | 460 |
7 | 神奈川県 | 1,268 | 348 |
8 | 千葉県 | 1,198 | 245 |
9 | 愛知県 | 976 | 337 |
10 | 広島県 | 758 | 357 |
11 | 和歌山県 | 520 | 179 |
12 | 静岡県 | 511 | 101 |
13 | 栃木県 | 471 | 58 |
14 | 埼玉県 | 458 | 89 |
15 | 新潟県 | 400 | 97 |
16 | 山梨県 | 394 | 78 |
17 | 奈良県 | 323 | 48 |
18 | 三重県 | 291 | 26 |
19 | 岐阜県 | 279 | 47 |
20 | 兵庫県 | 266 | 57 |
21 | 滋賀県 | 249 | 48 |
22 | 茨城県 | 243 | 35 |
23 | 熊本県 | 235 | 53 |
24 | 鹿児島県 | 219 | 40 |
25 | 愛媛県 | 215 | 42 |
26 | 群馬県 | 210 | 42 |
27 | 宮城県 | 191 | 47 |
28 | 香川県 | 188 | 46 |
29 | 長野県 | 188 | 35 |
30 | 長崎県 | 187 | 52 |
31 | 岡山県 | 170 | 43 |
32 | 福島県 | 157 | 27 |
33 | 富山県 | 149 | 17 |
34 | 山口県 | 147 | 24 |
35 | 大分県 | 143 | 45 |
36 | 石川県 | 128 | 45 |
37 | 岩手県 | 115 | 24 |
38 | 青森県 | 111 | 10 |
39 | 宮崎県 | 107 | 22 |
40 | 高知県 | 107 | 15 |
41 | 島根県 | 103 | 22 |
42 | 徳島県 | 97 | 20 |
43 | 佐賀県 | 68 | 12 |
44 | 鳥取県 | 57 | 9 |
45 | 秋田県 | 53 | 7 |
46 | 福井県 | 52 | 10 |
47 | 山形県 | 49 | 11 |
| 合計 | 48,686 | 18,368 |
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全国届出先別ランキング トップ30
№ | 地域 | 届出件数 | 事業廃止件数 |
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1 | 大阪市 | 5,219 | 3,447 |
2 | 札幌市 | 4,368 | 2,461 |
3 | 新宿区 | 4,332 | 1,306 |
4 | 墨田区 | 2,308 | 691 |
5 | 豊島区 | 2,300 | 849 |
6 | 福岡県 | 2,246 | 1,110 |
7 | 渋谷区 | 1,963 | 873 |
8 | 台東区 | 1,687 | 746 |
9 | 沖縄県 | 1,578 | 617 |
10 | 北海道 | 1,437 | 398 |
11 | 京都市 | 1,263 | 441 |
12 | 千葉県 | 1,198 | 245 |
13 | 港区 | 1,052 | 427 |
14 | 名古屋市 | 802 | 307 |
15 | 世田谷区 | 596 | 135 |
16 | 北区 | 581 | 171 |
17 | 広島市 | 551 | 318 |
18 | 葛飾区 | 548 | 253 |
19 | 神奈川県 | 531 | 140 |
20 | 和歌山県 | 520 | 179 |
21 | 静岡県 | 511 | 101 |
22 | 東京都 | 508 | 88 |
23 | 中野区 | 500 | 201 |
24 | 杉並区 | 485 | 130 |
25 | 板橋区 | 479 | 172 |
26 | 栃木県 | 471 | 58 |
27 | 那覇市 | 462 | 93 |
28 | 江戸川区 | 456 | 162 |
29 | 埼玉県 | 439 | 78 |
30 | 山梨県 | 394 | 78 |
| 全国合計 | 48,686 | 18,368 |
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